ママチャリで走る経営者の日常―オトバンク会長・上田渉ブログ

聞き入る文化を広めるオトバンク会長の上田渉のブログです。神保町界隈をママチャリで駆け抜ける姿を見かけたら、それは私かもしれません。

10年目を迎え、創業当初を思い返してみました

はじめまして。株式会社オトバンク代表取締役会長の上田渉です。


昨年12月28日に弊社は創業10年目を迎えました。以前のブログは長らく更新できていませんでしたが、社長の久保田の投稿を読んで節目の年を機にまたブログを始めてみようと思い立ち、新たにブログを立ち上げることにしました。

さて、久しぶりのブログということで文章を書くのも久々ですが、せっかくなので創業時のことを簡単に振り返ってみようと思います。

よくインタビュー取材などでも創業のきっかけをご質問いただきますが、私がオーディオブックの会社を創るに至った背景に、祖父が緑内障失明したという原体験があります。祖父は書斎を持っていたほど大の本好きでした。そんな彼が失明してから急に元気を失った姿を見て、子供ながらに「祖父のためになにができるだろう」と思っていたのです。

f:id:wataruueda:20090714122808j:plain
[祖父母と妹と私]

祖父は大学入学前に亡くなり、彼に何もしてあげられなかった心残りをどこかに抱えながらも、私は多忙な大学生活を送っていました。大学3年生になり、周りが急に就職活動モードになった頃、改めて考えるようになりました。「自分はなにがしたいのだろう」と。
教育改革をするため政治家になろうと思い立ち、偏差値30から一念発起し2浪の末東京大学に入学したものの、政治家の秘書業務の手伝いなどに関わる中で政治から教育を変えるのは難しいと断念。NPOベンチャー企業の立ち上げにも関わり、理念だけでも、お金だけでも組織を維持するのは難しいことを知りました。

こうして悩んでいる時期、弁論部の活動を通して出会い、投資家となっていた先輩(現取締役の瀧本哲史)と再会し、自分の考えていることを話したことがあります。そこで自分のやりたいことがはっきりしてきました。祖父のような目の不自由な方の役に立ちたい。そのために自分ができることは何なのか。はじめは対面朗読をするNPOを創ろうかと考えましたが、調べていくうちに海外ではオーディオブックというものがあり、一般的に普及していることを知りました。だとすると日本にもオーディオブックを浸透させれば広く朗読を届けることができる。そう思いました。こうして大学生だった私は、オーディオブック事業を行うオトバンクを創業しました。

当初は、既にあるラジオや朗読CDなどの音源をラジオ局や出版社から集めて配信するプラットフォームを作ろうと考えていました。しかしこの構想は瞬時に崩壊します。なぜなら、ラジオなどの音源に関わる権利として「実演家の権利」があり、それぞれの放送一つ一つの許諾を取るには膨大な手間がかかるのです。当時まだプラットフォームさえ持っていない実績のない私たちには、ただ引き下がることしかできませんでした。

そこで新たに書籍を音声化してオーディオブックを制作しようということになったのですが、ここでも大きなハードルがありました。まず、オーディオブックを制作するためには音声化の許諾をもらわなければ始まらないのですが、弊社には出版社のつてもなにもありません。仕方なく窓口からアポイントを取ることにしたのですが、何の実績もないアイデアだけの大学生起業家の話をいきなり聞いてくれるところはほとんどありませんでした。なかなか取り合ってもらえず、運良く話を聞いてもらえても、「実は昔日本でもカセットブックというものがあったのだけどなかなかうまくいかなかった、だからオーディオブックなんて流行らない」という話をされて終わり。無念でした。

そんな中でも諦めずに活動を続けているうちに、興味を持ってくださる出版関係者の方が出てきました。東大教授に『パワーブランドの本質』の著者でもある片平秀貴先生という方がいるのですが、彼の書籍をオーディオブック化したかったため講義後に相談し、当時のハーバード・ビジネス・レビューの編集長を紹介していただきました。その方が「うちにドラッカーの論文がたくさんあるからオーディオブック化したらいいよ」と言ってくださり、これが今でも売れ続けている『ドラッカー経営論』につながっています。社内の調整も全て引き受けてくださって、本当に心強い味方としてサポートしていただきました。初期にこうした強力な味方が応援してくださったからこそ、「これはいける」と思うことができたのです。

2004年12月、オフィスも仲間もなく志と身一つで会社を立ち上げたときは、こんなにたくさんの仲間と一緒に10年を迎えられるとは夢にも思っていませんでした。これからオトバンクは、さらなる大きな未来を創るべく事業活動に取り組んでまいります。会員数10万人を達成し、オーディオブックの作品数も1万作品ほどとなりましたが、ようやくスタートラインに立てたでしょうか、というところです。私たちの目指す「いつでもどこでも誰もがオーディオブックを楽しめる世の中」にするためには、やらなければいけないことがたくさんあります。

また私個人として、視覚障害者のバリアフリーの整備には特に注力していきたいと考えています。中途失明の方が情報に触れる機会を拡大させ、情報が届くべきところに行き渡っている状態にしたい。日本はバリアフリーが進んでいると言われてはいますが、障害によって不利なことも未だ多く存在しているので、バリアフリーが行き届く世の中にしたいと思っています。

それだけでなく、「これは思いつかなかった」「これは新しいね」といった驚き・楽しみを提供したいというのも常々思っていることです。イノベーションを起こし、皆が喜ぶ顔を見たい。やりたいことを考えるとどんどん出てくるので、日々アイデアを形にできるよう、皆さまと共に励んでいきたいと思っております。

これまで本当に多くの方の応援を受けて10年目を迎えることができました。志に共感して応援してくれる人が増えることが嬉しく、心の底から感謝申し上げます。皆様のおかげでここまで来ることができました。これからも宜しくお願い致します。


オーディオブック配信サービス - FeBe(フィービー)